NHKスペシャル「フリーター漂流」

 最近話題になっているNHKスペシャル。放送より数日たって録画しておいたものをやっと見る。
 急変する需要に対応して臨機応変に生産するための「フレキシブル」な労働力を求める工場。それにフリーターを集めて送り込む請負業者。保障も無く時給900円で単純労働に従事するフリーター。
 モデルチェンジが早いため、ラインを完全に機械化できない携帯電話の製造現場には単純作業を行う低賃金労働者(=フリーター)が必要とされている。そうした工場にフリーターを供給するのが請負会社である。請負会社は各地でフリーターを集めて、工場に住み込みで働かせる。フリーターは製造ラインで単純作業に従事するのだが、工場の受注次第で何度もラインを変えられ、勤務する場所すら頻繁に変えられる。そのたびに請負会社は工場の言うとおりにフリーターを動かし、フリーターは言われるままに移動していく。
 フリーターの時給は900円であり、残業をしなければたいした稼ぎにもならない。しかもその残業すら工場の受注次第で決まるため、月の賃金は不確定である。基本的にアルバイトであるため労働した時間しか賃金はもらえないため、病気で休んだ場合の保障も無い。そして単純労働の繰り返しで身に付くスキルなど無いため、将来のステップアップも存在しない。
 この番組はそんな現実をたんたんと流した内容であった。
 これを見るとマルクスの言う「人間疎外」がリアリティーを持ってくる。「資本論」で描かれた19世紀のイギリスの工場労働者の姿が現代日本に存在することを映像によって突きつけられたことは衝撃であった。フリーターがあたかも現代の無産階級*1であるかのように擬することができるこの現状。しかもこうした現状はフリーターに限ったものではなく、正社員においても同じなのである。就職四季報を眺めていると有給休暇の取得実績が5日を下回っている会社がかなりある。そのような会社は外資やマスコミ、金融などの激務かつ給料が高いところに限った話ではなく、流通・小売・外食などの激務かつ給料が安いところも多いのである*2。決してフリーターだけが厳しい現状に置かれている訳ではないのである。
 果たして働いている人間が幸せでない会社が社会に利益を生み出しているといえるのであろうか。顧客を幸せにするサービス業に従事する人間が幸せでないというパラドックスは何を意味しているのだろうか。今の社会は高度成長期とは正反対の負のスパイラルにあるのかもしれない。

「フリーター漂流」感想リンク集 id:nopiko:20050206
画像集 http://white.kakiko.com/omeemona2005/furi_ta_.htm

*1:生産手段をスキルと言い換えればピッタリ合致してしまうのが哀しい

*2:ちなみにこれらの企業は決して零細企業や中小企業ではない。