古田博司「東アジアの思想風景」岩波書店,1998

朝鮮やかなる国

 スポーツクラブで自転車を漕ぎながら読了。北朝鮮李朝史の専門家である古田博司氏が岩波書店の雑誌「世界」に連載していた韓国・朝鮮に関するコラムをまとめ、書下ろしを追加して単行本化したものである。ちなみに氏はこの本でサントリー学芸賞を受賞している。
 感想としては「なんでこの本が学芸賞とったんだろう?」の一言。韓国に対する筆者特有の面白い視点がシンプルに書かれているかと思えば、変に凝った衒学趣味的な文体が出てきたりと各章ごとの内容のできは不ぞろいである。大学院での李朝史研究の末、八十年代の韓国に数年間遊学*1した筆者の体験からくる視点は、昨今の韓国礼賛本とは一線を画した、知性と経験に裏打ちされた確かなものである。しかし所々出てくる衒学趣味的な表現、いうなれば岩波読者層の受けを狙ったような文は、本書の内容の良さを大きく損ねていると感じられる。むしろ同じ著者の書いた「朝鮮民族を読み解く:北と南に共通するもの」のほうが変に凝った文章もなく、氏の視点が良くまとまっている点で良い。学芸賞の受賞作は「東アジアの思想風景」よりはむしろ「朝鮮民族を読み解く」のほうがふさわしい。
 朝鮮半島について知りたいのであれば、巷にあふれている韓国礼賛本や北朝鮮憎悪の本よりは古田氏の一連の著作を読むことをお勧めする。

*1:本の内容を見るにつけ留学というよりその実態は遊学であろう